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最高裁判所第一小法廷 平成9年(し)162号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件とは事案を異にして適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、処分不当の主張であって、少年法三五条一項の抗告理由に当たらない。

なお、所論のうち判断遺脱をいう点について職権で判断する。

所論は、付添人は、抗告の理由を後に補充する旨を指摘して抗告を申し立て、抗告提起期間内に抗告申立補充書を提出したのに、原審は、抗告申立補充書記載の理由について判断をしておらず、原決定には判断を遺脱した遺法があるというのである。

記録によれば、東京家庭裁判所八王子支部は、平成九年八月五日、少年に対し、強姦致傷等の非行事実により,初等少年院送致(特修短期の処遇勧告付き)の決定をし、同月七日、付添人がこれを不服として抗告を申し立てたところ、抗告審である原審は、同月一四日、抗告棄却の決定をしたが、付添人の同日付けの抗告申立補充書記載の主張については、これの提出が既に抗告棄却決定をした後であったため、判断をしていないことが認められる。そして、付添人から同月七日に提出された抗告申立書には、抗告の理由として「抗告の理由は、処分の著しい不当である(もっとも、決定書謄本が未交付であるため、決定書の内容如何では、非行事実についての重大な事実誤認を含む余地はある)。」と記載され、最後に、「原決定は特修短期の少年院送致であるから、抗告裁判所にあっては早期に審理を行っていただきたく上申する」旨付記されている。

少年審判規則四三条は、「抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出すものとする。」、「前項の申立書には、抗告の趣意を簡潔に明示しなければならない。」と規定し、抗告の趣意を記載した完結した申立書により抗告をすることを予定しており、抗告審としては、抗告事件を受理した後は、抗告提起期間内であると否とにかかわりなく、いつでも裁判をすることができ、抗告提起期間内はこれを差し控えなければならないものではない。もっとも、抗告申立人が、抗告申立てに際し、特に、抗告提起期間内に抗告の趣意を補充する旨の明示の申し出をしたときなどには、抗告提起期間内はその補充を待つことが運用上相当な場合もあるが、本件抗告申立書には、前記のとおり括弧書の付記はあるものの、必ずしも抗告提起期間内に抗告理由を補充する旨をいうものとはみられず、少なくとも、その趣旨を明示したものということができないばかりでなく、本件は特修短期の処遇勧告付きの少年院送致決定に対する抗告であって、できるだけ迅速に裁判すべきことが望まれる事案である上、審理促進の付記さえされているのであるから、原審の措置に何ら不当とすべき点はない。したがって、原審が抗告申立補充書の提出を待たずに決定をしたことに違法、不当はなく、所論は理由がない。

よって、少年審判規則五三条一項、五四条、五〇条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

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